地図帳を読むようなたのしさ (なすだ)
社会科の授業はそんなに好きではなかったけど、新学期にもらう教科書・地図帳・副読本は大好きでした。とくに世界地図帳や各国の紹介は、くり返しとり出しては世界を旅行するような気分になりながら眺めていたものです。
そんな気分をより亢進させてくれるのが、この写真集です。世界30国それぞれの「統計的中流」に属する家族の人と家と家財道具ぜんぶを1枚の写真に収めています。もちろん、家財道具をふつうの状態ですべて撮影することはできません。家の前に出してきて撮影するのです。すると、日本やアメリカのように出るわ出るわとモノにあふれかえった家もありますし、エチオピアやブータンのように「え? これで全部?」というような家もあります。出てくるモノもお国柄がよくあらわれていて、ウズベキスタンの家では立派な絨毯やキルトが29枚もありました。
内戦下にあるボスニアの家庭にはマットレスがたくさんあります。狙撃からのバリケードにするためです。中国の農家は、やはり自転車をたくさん持っています。多くの国の人たちが大事な家財道具として、家畜を写真のいい位置に持ってきています。
おもしろかったのはモンゴルの家。ここの住宅は「ゲル」という伝統的な天幕です。ここでは家のなかのものを出すのではなく、家自体を半分開けて、中のものを見せてくれています。家の中には大きな食器棚や化粧台、ベッドなどがあり、「モンゴル人は遊牧民」とおもっていると、そこも変化してきていることをうかがわせています。
撮影前にはカメラマンが数日間、その家族と生活を共にして、暮らしぶりを取材したり、インタビューをおこなったりしています。日本の家族はこんな風に紹介されています。「夫のカズオは……テレビに表示された時刻を自分で確認して、7時28分きっかりに家を出る。駅まで歩いて行き、電車に乗る45秒前には駅に着く(今回のわたしの滞在中、この時間は正確に守られた)」
戦争や災害に脅かされていないかぎり、たいがいの人々は自分の生活が快適で、満足なものだと考えています。しかし、「ほしいものは?」とたずねられれば、市場経済から隔絶されたように見えるブータンの人ですら「電気」と言い、そこから「テレビ」「自動車」「ビデオゲーム」と続きます。日本にいる消費生活が後ろめたいからと言って、他国の人に欲求から縁遠い生活を求めることは身勝手なのでしょう。しかし、アイスランドのお父さんのほしいもの「自家用飛行機」、クウェートでは「釣り船」などと聞くと、ああ、つまりキリがないってことだよね、と実感できます。
このプロジェクトから10年経ったいま、世界の人たちの暮らしはどのように変わり、また変わっていないのか。今度は自分が世界を旅してみたくさせてくれる本です。
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