あなたもエレベーターでハワイにいってみませんか (はしの)
アイスクリームをおばあちゃんに届けるおつかいをたのまれたひでくん。いそいでエレベーターにのりこみます。ところが、このエレベーター、「まいにち おんなじところをいったりきたりであきちゃったんだ」といって、よりみちをはじめます。
せまいエレベーターのなかのはずなのに、「つぎのえきまでいってくれ」と汽車がのりこんできたり、「しまった、うちゅうせんをまちがえたらしい」と宇宙飛行士が迷いこんできたり、「おはかまでいってくれたまえ」ときもだめしパーティの相談をはじめるおばけたちが乗りこんできたりします。そしてエレベーターをおりるときにはきまって「ぼうやもいっしょにくるかい」とさそうのです。
それでも、ひでくんはアイスクリームのはいった箱をしっかりかかえて、おばあちゃんの家に向かおうとしますが、つぎには「アローハ。ハワイまでいってくれる」と水でいっぱいになったエレベーターにイルカがあらわれます。さてさて、ヒデくんは無事におばあちゃんにアイスクリームを届けることができるでしょうか。
エレベーターがハワイに到着し、あおいそらとかがやくうみにうっとりしているひでくんに、イルカが「ぼうやもいっしょにあそんでいきなよ」と声をかけたところで、小学4年生の息子がいいました。「おれだったら、ここでおりちゃうのになあ」
4年生になり、生意気な口をきくようになりはじめた彼がこんなことをいうなんて、少し意外な気がしましたが、「こんなエレベーター、あるわけないじゃん」ではなく、「おれだったら、ここでおりちゃうのになあ」だったことを私はとてもうれしく思いました。
私が小さい頃には、近くに高い建物は少なく、一人でエレベーターに乗る機会は、電車に乗ってデパートに出かけたときくらいしかありませんでした。しかし、今の子どもたちにとって、エレベーターはあたりまえの乗り物です。私が住むマンションは7階まであります。子どもが一人で利用している姿もよく見かけます。エレベーターに乗りこんでみると各階のボタンがすべて押されているといういたずらにあうこともあります。我が家の子どもたちもエレベーターを利用することが多いので、そんな身近なエレベーターにイルカがあらわれハワイまでいってしまうという場面で「ここでおりちゃうのになあ」という反応を息子がするとは思いませんでした。
でもエレベーターは誰が乗ってくるかわからない密室です。とびらがひらいたら何が出てくるかわからない、実はそんな不安や期待でちょっとドキドキしながら、子どもたちはエレベーターに乗っているのかもしれません。ましてや私の趣味で買い揃えたコミックの『ドラえもん』全45巻を読破し、今はテレビでアニメの放送が始まった『ブラックジャック』を夢中になって読んでいる息子のことです。心のなかでは現実と空想の世界を行き来していて、エレベーターも別な世界へ通じる入口であって、人間以外のものたちが乗りこんできたら良いなあ、と本当は思っているのかもしれません。私だって、こんなエレベーターがあったら楽しいなって思いますから。
ある日の雨あがり、にじが出ました。窓のみぎの方に見える少し離れたマンションのうえに、にじがかかっています。遠くまで広がる、なだらかにくだっていく丘の上にたつ家々の屋根もきらきらとかがやいています。にじを見つけた小学2年生の娘がいいました。「いいなあ、あのマンションの人は。にじがすぐ近くに見えて」すると息子がこたえました。「違うよ。近すぎると見えないんだよ」ちょっと科学的に正しそうな解釈。「いいなあ、だってのぼれそうだもん」とまた娘。「ダメだよ。だって急すぎる」と息子。
う〜ん、少しあほな会話だけど、「良かった、こんな会話ができるようになって」とあほな親の私は思いました。
うら表紙には、南国のくだものにかこまれて、トロピカルドリンクを飲んでいるひでくんの絵が描かれています。やっぱり、ハワイにいっちゃったみたいですね。
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