「見てはいけない」から大ブームに (コリーナ)
見てはいけないと言われると、ますます見たくなるのは周知のこと。このダレン・シャンは、題名も作者も同じ。「はじめに」の部分で書いてあるように、わけあってのペンネームなのだ。そのあたりの本づくりもうまい。こどもに本の紹介をするときに、シルク・ド・フリークのちらしのページを見せながら伝える。
「よじれ双子に、蛇少年、狼人間たちのサーカスらしい。おくびょう者のお客さまはお断り! そしてこのちらしを手に入れた人だけが行くことができる。親にもないしょで夜中にこっそりダレン・シャンは友だちと二人ででかけていった。そこでとんでもないことにまきこまれることになったんだ。ただし、少し気味の悪いところもあるので、そういう人は読まないほうがいい。また、おもしろがって嫌がる人にわざわざ見せないこと。」
こんな調子で、本の紹介を進めると、子どもたちの姿勢が前傾になってきた。本の紹介が終わるやいなや予約の申し込み殺到。すぐに借りられることになった子どもたちはいいが、本の数は1冊なのでほとんどの子どもは読みたくても読めない。と思っていると、ちらほらと家で買ってもらったりした子どもたちが増えてきた。なかでも一人の男の子は早かった。その子はクラスの中でもリーダーシップをとる男の子。声も大きく、頭の回転も速く、運動神経バツグン。
でも、得てしてそうであるようにときに強引で、それが叱られる原因ともなってしまう。声が大きすぎるからと注意しても「だって、ぼくはもともと大きい声なんだもん!」と言い切ってしまうというありさま。
学校では朝に10分間読書の時間があるが、そのときに彼がダレン・シャンを読んでいた。その時間だけでなく、朝のホームルームが始まっても本から目を離すことができない集中ぶり。「本を閉じましょう。」という始めの声かけが「ダレン・シャン 閉じるよ」と書名を指して言うようになった。すると、「だって、おもしろいんだもん!」と返ってくる。
もともと、彼はよく本を読むほうであったが、このときは特に集中していた。そして、彼にそれなりに羨望のまなざしを向けているような子どもたちが「ダレン・シャン」のおもしろさをわかって、いっしょにその話題に入りたいと感じたようだ。
その後すぐに2巻が出た。その入手も彼は早かった。学校図書館より早かったのが事実である。でも、その頃にはかなり「ダレン・シャン」のおもしろさは浸透されており、2巻の発売日を待って買った子どもは一人ではなかった。「ハリーポッターより全然おもしろいよね。」と言う子や「1巻より2巻のほうがおもしろかった!」など声として出てくるのである。
そして、クリスマス近くに3巻が発売された。このときは、違う男の子が一番に持っていた。発売日より早い日にちだった。朝の読書の時間は、うらやましい叫び声があがった。「えー、もう持ってるの?読ませてぇ。」でももちろん本人が昨日買ってもらって、読み出したばかりのものだから、それは無理なはなし。でも、発売日すぎには、クラスで5人を超える子が持っていた。それが、順々にまわっている様子。またしても、学校図書館より早かった。私もそのリーダーシップの男の子に「ちょっと、見せて。」と言ってしまった。すると、「え、いいよ。貸してあげる。」という答え。「じゃあねえ、冬休み中貸してあげる。」と言われ、大喜びした私である。
声の大きい男の子と教師の会話である。その場にいた子どもたちの耳には届いているはず。おもしろい本に、宣伝力のある男の子がファンとつけば鬼に金棒である。「ダレン・シャン」はクラスでほぼ半数以上の子どもたちが読んだ本といえるであろう。さらに、書名については全員が知っているものとなった。
男の子は今、「くまのパディントン」を読んでいる。テストが早く終わったあとなど、「本、読みたいなぁ。」と聞こえるようなひとり言をいう。センスある選書だなぁとうれしくなってしまう。
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