暗がりが想像力をかきたてる (モモ)
暗いところは怖いところ、かつて幼少の自分にとっても暗いところは怖かった思い出があります。田舎の実家にはイモ類を保存するための地下室(むろ)がありました。玄関を入った土間に木でふたをしたところがあって、ふたを取ると地下壕のようになっていました。
真っ暗な室はなんとも不気味で、悪いことをすると母に「ここに入る?」といわれ、ますます入ることができませんでした。土間が土からコンクリートに変わったとき室は閉じられてしまい、いったい室はどんな世界だったかわからずじまいとなりました。ところが室の中のようすは夢で何度もみました。ときにはねずみの世界だったこともあります。小人が住んでいたこともあります。穴は深くて、近くの川の中州につながっていたことも……。入ったことがないので夢で想像したのでしょう。
おしいれも、ふだんは子どもにとって遊び場の一つですが、閉じ込められると別です。戸を閉めた暗がりのおしいれは子どもにとって恐怖の世界へと変化することだってあります。
この本では、二人が想像したのがねずみの世界、あまりの恐怖から逃げるのですが、湧き出すようにかならず現れるねずみばあさんは、まるでオカルト映画のシーンのようです。ほとんどが黒だけで描かれた絵はおしいれの世界とマッチしてねずみばあさんの怖さを引き立たせます。本当に起こったらちびりものです。
怖いものは大好きだけど一人ではなにもできずに泣いてしまうかもしれないけど、友達が一緒ならどうにかなるさ。子どもの心理をにくいほどついた作品です。読んだことのある子どもたちは、おしいれのぼうけん=(イコール)ねずみばあさんと自然にでてくるほど、開いたその瞬間から子どもたちはスリリングなぼうけんに吸い込まれてしまいます。
以前、怖い話はないかしら、と相談されたので保育園の先生にこの本を紹介したところ、ねずみばあさんになりきって子どもたちに読んであげたそうです。先生のねずみばあさんはどきどきするほど迫力があり、泣いてしまう子どももいました。それからというもの、保育園ではみんなが夢中になってしまい終わりまで読んでとせがみ、先生は声を枯らせながら何日も読んでくれました。
それ以来保育園ではおしいれ遊びが流行って、昼寝布団をだしたあとのおしいれは押すな押すなの大騒ぎです。「先生、ねずみばあさんやって」「ふっふっふ。ねずみばあさんだよ。わたしのかわいいねずみたちが、おまえたちを食べたがっているよ」などと言っては楽しんでいたと娘が報告してくれました。
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