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力いっぱい踏んばる感覚
・・・・・December12
 

『たんたんタグボート』
谷真介 作
水木連 絵
1974年・偕成社
(写真は1987年の改訂版)

 


『しょうぼうじどうしゃ じぷた』
渡辺茂男 作
山本忠敬 絵
1966年・福音館書店

[内容紹介]

 低い姿勢で大きな船をぐんぐん引っぱるタグボートの「やすべえ丸」、大物ぞろいの消防署のなかで肩身の狭い思いをしていた消防自動車のじぷた。

 ぼくはなぜ、この物語に強く魅きつけられたのか。

 

   

力いっぱい踏んばる感覚(なすだ)

 子どもが物語の世界にはいりこむやり方に、「登場人物と一体化する」というのがあるが、ぼくにはあまりそういう覚えがない。小学校の2年生から4年生にかけては、冒険推理小説をずいぶん読んでいたが、ルパンは大人だし、小林少年は古くさい良い子口調が自分の感覚とあわなかった。那須正幹の『ズッコケ三人組シリーズ』で言えば、ハカセが自分の役回りなのだろうが、そういう「わりふられた」人格には、どうにもすなおに感情移入も共感もできないのだった。

 そんなわけで、ぼくの読書の志向は、観客として映画のスクリーンを見るようにストーリーをたのしむものや、知識を得るよろこびのあるものにかたむいていき、その両方を満たしてくれる(ハデな画面を見せてくれて、啓蒙の要素もある)SFへと向かった。

 けれど、やはり最初の本との出会いには、登場人物と一体化する感覚があったのだ。ぼくが一体化したのは、タグボートと消防ジープだった。

『たんたん たぐぼーと』は3歳から5歳くらいにかけて、図書館から何度となく借り出して母に読んでもらい、やがて自分で読むようになった。ものすごく好きな話だったということだけはわかるのだけれど、話の内容はまったく覚えていない。たぶんタグボートが港の中で元気に働く話なのだろうとおもう。唯一あざやかに覚えているのは、港内を波を蹴立てて進むタグボートが描かれた表紙だけれども、これすら自分のなかで捏造された記憶かもしれない。

『しょうぼうじどうしゃ じぷた』は5歳ごろに買ってもらった本で、ずっと手元にあったのでストーリーははっきりと覚えている。町の消防署でちびの消防ジープが、はしご車の「のっぽさん」や救急車の「いちもくさん」と並べられ、肩身を狭くして暮らしていたが、ある日、ほかのだれも行けない山奥に出動して、山小屋の消火に活躍するという話である。
 この本にはラボ教育センターがつくった英語教材版テープがあり、そこでは「のっぽさん」や「いちもくさん」は、それぞれ自分の長所をアピールするテーマソングを、得意げに歌う。なんと鼻持ちならない奴らだろうと、じぷたの劣等感と羨望を痛いほどに感じた。

 この2つのお話がとても好きで、何度もくりかえして読んでいたのだが、なんで好きだったのかということは考えたことがなかった。でも理由はしごく簡単で、ぼくはクラスで1、2を争うチビだったのだ。

 タグボートやじぷたは強力な内燃機を積んでいるから力持ちだったが、ぼくはふつうにチビらしく非力だった。それでも、この物語に読みしたしみ、彼らと一体となって活躍するうちに、なりは小さくてもがんばればやれるんだという幸福な錯覚は、ぼくのなかにしっかり根づいた。そしてそれは、小揺るぎもしないように見える大きな船も、ともづなをひっかけてからだ全体で引っぱれば少しは動く、という正しい力学的認識へと育った。

 低い姿勢で大きな船をぐんぐん引っぱる「やすべえ丸」、狭い山道を軽快に駆け抜けるじぷた。ああいう「頼もしいチビ」になりたいという感覚がずっと残っている。

 

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『すき ときどき きらい』
東君平 文
和歌山靜子 絵
1986年・童心社

「きらい」っていうのは「すき」っていうことだよね!

 ぼくには2歳の弟がいる。ぼくが弟と同じように、母さんのことを「ちゃーちゃん」ってよぶと、「なによ おにいちゃんなのに」って笑われるし、弟は手でごはんを食べてもおこられないのに、ぼくがこぼすと母さんは怒るし、父さんは「おはしは もっと ながくもって」って怒る。
 だから、「ぼくは おとうとのこと きらいで すき。おとうとは ぼくのこと だいすき みたいだけれど。」

(はしの)

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