あこがれを実現してくれるワンピース(はしの)
幼稚園で毎月行われる、その月に生まれたこどもたちを祝う誕生会。恒例の「おおきくなったら、なにになりたい?」という質問に、4歳の誕生日を祝ってもらった娘は「おんぷちゃん…」と答えました。それも聞こえるか聞こえないかという小さな声で。ほかのこどもたちには聞こえていないかもしれない。それでも娘にとっては、はずかしそうにうつむきながら、やっとの思いで出した言葉です。
彼女は4月1日が誕生日の究極の早生まれ。担任の先生の配慮もあって、新学期が始まったばかりの4月ではなく、もうすぐ一年が過ぎようとする3月にお祝いしてもらい、いちばん最後に4歳になりました。だから同級生の中ではダントツに小さいし、工作のつくり方やゲームのルールを先生から説明されても、なかなか理解することができません。それでもお友だちの真似をしたり、ときには助けてもらったりしながら何とかしているらしく、楽しそうに幼稚園生活を送っています。
と、あたかも自分で見聞きしたように書きましたが、実はすべて妻から聞いた話です。さて、娘がなりたいと願っている『おんぷちゃん』とは何者なのでしょうか。これは父親の私にもわかります。『おんぷちゃん』は、TVアニメのキャラクターです。小学校5年生の魔女見習いなのですがで、歌手、女優の仕事をしている超人気のアイドルでもあります。人気アイドルというと、表面だけ着飾ったかわいいだけの女の子のように聞えるかもしれませんが、『おんぷちゃん』は少し違います。何か問題が起こったときも、冷静に解決方法を考え、仲間にさりげなくアドバイスしたりする、一緒に魔女をめざすなかよし5人組のなかでは、お姉さん的存在です。かわいいだけでなく、頼りになるお姉さんでもある、そんな『おんぷちゃん』に娘は惹かれているようなのです。そういえば、幼稚園でなかよしのお友だちも、娘ができないことを手伝ってくれるお姉さんタイプが多いような気がします。
だからでしょうか、彼女のおしゃれの基準は、『おんぷちゃん』と幼稚園のお友だち。幼稚園に出かけるときは、どんな髪型にしようか、どの髪飾りをつけようか、どの靴下をはいていこうかと、いつも送迎バスの時間ギリギリまで悩んでいます。『おんぷちゃん』やお友だちと同じ髪型にしたい、同じ洋服を着たい、そうすることで自分もお姉さんになれる、そう思っているようです。
そんな娘が好きな絵本が『わたしのワンピース』。空から落ちてきたまっ白なきれで、うさぎさんが作ったまっ白なワンピース。お花畑を歩くと花模様に、雨にぬれると水玉模様にと、次々に模様がかわっていきます。『ラララン ロロロン わたしに にあうかしら』と模様がかわるたびによろこぶうさぎさんを見て、娘もとてもうれしそう。模様が次々とかわっていくワンピースは、娘にとって単にかわいい洋服という存在ではなく、好きなものに変身させてくれる憧れのワンピースなのかもしれません。
4歳になって、「もうお姉ちゃんだから」という言葉が彼女から多く聞かれるようになりました。「もうお姉ちゃんだから、ひとりでトイレに行けるよ」「もうお姉ちゃんだから、ひとりで着替えられるよ」「もうお姉ちゃんだから、ひとりで歯みがきできるよ」。ゆうやけ色にそまったワンピースを着たうさぎさんは、いつのまにかねむってしまいます。星空の中をとび、目がさめたときには、うさぎさんのワンピースは星模様になっています。こんな風に、ひと晩ねむるごとに成長して、早くお姉ちゃんになりたい、という娘の願いがかなうようにと、娘と一緒に『わたしのワンピース』を読んでいます。
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