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一人の月夜にやってきた友だち
・・・・・November 11


『おやすみ、わにのキラキラくん』カズコ・ストーン作、
いぬいゆみこ訳
1993年・福音館書店

 星のきれいな夜、わにのアリゲーがハンモックにはいって空を見上げていると、いつのまにか星がつながって、わにの形になりました。アリゲーは星でできたわにに「キラキラくん」という名前をつけます。

 するとどうでしょう。キラキラくんに命が吹き込まれたのです。アリゲーとキラキラくんはおしゃべりをし、やがてキラキラくんは地上に降りてきて、ふたりはいっしょに夜のジャングルをお散歩します。
 すっかりなかよくなったあと、キラキラくんは、アリゲーからすてきな星のベッドをプレゼントしてもらってうれしそうに空に帰っていきます。最後のページはアリゲーが星をつなげて書いた「おやすみなさい」の文字の下で、キラキラくんがすやすやとハンモックに揺られています。そばにはずっと二人を見守ってくれたお月さまもぐっすりと目を閉じて眠るのでした。

一人の月夜にやってきた友だち (たまちゃん)

 
 みさちゃんは小学校2年生、背の順も一番前で、体も小さい女の子です。年子で1年生の弟の方が背も高く、体格もがっちりしていて、みさちゃんの方がまるで妹のようです。でも、みさちゃんは小さい体でぴょんぴょん活発に動き回る元気いっぱいなおねえさん。毎朝、大きな弟の手を引いて、笑顔で登校してきます。
 実は、みさちゃんは、そのはつらつとした姿の裏側で、普通の2年生の生活とは思えないほど、気を張って毎日を過ごしていました。
 みさちゃんの両親は、3年ほど前に離婚し、それ以降、りかちゃんと弟のこうたくんは、お母さんといっしょに住んでいました。大好きだったお父さんとは以来一度も会うことができないままだそうです。
 まだ二十代の若いお母さんは、二人の子どもを養っていかなくてはならないという重責をひとりで担わなくてはなりません。学歴もなく、手に職もないお母さんにとって、夜のお勤めは、背に腹はかえられぬ状況下での選択でした。

 けれども、お母さんのいない夜を、みさちゃんは、幼い弟を守って必死で過ごさなければならなかったのです。弟のこうたくんは体は大きくても、気持ちはまだまだお母さんに甘えたくて仕方ない年頃です。お姉ちゃんと二人で過ごさなければならない夜を、どれほどいやがり、泣いたり、すねたりしたことでしょう。
 いうまでもなく、みさちゃんとて、まだ8歳です。本当はお母さんにご飯をつくってもらって、子守り歌を歌ってもらって、絵本を読んでもらって、安心して眠りにつきたいのです。しかし、みさちゃんは、弟といっしょになって泣いているわけにはいきません。夕ご飯を作り、弟に食べさせ、二人でお風呂に入り、ぐずってばかりいる弟を寝かしつけなくてはなりません。みさちゃんは本当に小さいお母さんのように一生懸命でした。

 そんなみさちゃんが、私に何度も「読んで。」と持ってきたのが、『おやすみ、わにのキラキラくん』(カズコ・ストーン作、いぬいゆみこ訳 、福音館書店)です。
放課後の誰もいない教室で、みさちゃんは「まだ帰らなくてもいいの。」と言って、私のひざの上に小さいお尻をのせてきました。
 1ページ目から吸い込まれるような広くて深い夜空。すみのほうににっこり微笑むお月様に見守られて、わにのアリゲーがハンモックに揺られています。ひとりぼっちのアリゲーでしたが、またたく星空の中に友達を見つけ、おいしいおやつをつくってあげます。
 アリゲーが星をつなげてパンケーキと魚とバナナとすいかをつくる場面で、みさちゃんは毎回、「パンケーキにシロップかけて。」とか「バナナの皮むいて。」などとねだります。私はみさちゃんの手を取って、パンケーキにシロップをたっぷりかけるふりをしたり、バナナの皮を1枚ずつむくふりをしました。クラスでもお姉さん格のみさちゃんがこんなふうに甘えてくるなんて、同級生はきっと誰も知らなかったでしょう。

 おやつが終わると、アリゲーはキラキラくんを遊びに誘います。うれしくて流れ星のようにさーっと降りてくるキラキラくん。みさちゃんは、キラキラくんが急いで会いにきてくれるこの場面を見ると、「すぐに来てくれたね。」とにっこりして私の顔をのぞきこみます。さみしい夜、会いたい願いにすぐに応えてくれて、矢のように飛んできてくれる人がいるなんて、みさちゃんにはとてもうらやましいことだったのでしょう。
 そういえば、みさちゃんは、がんばって書き上げた書き取りノートも、なわとびの二重とびも、周りに誰かがいるときには、決して私に見せに来る子ではありませんでした。だから、仲のよい子達が休み時間にわいわいと、得意技を私に見せに来ても、一緒に来たりはしません。必ず、放課後、他の子達がいなくなった頃に「先生、見てて。」と上達したなわとびの技をやって見せたり、自習ノートを見せに来ます。周りに他の子がいたら、「ちょっと待っててね。」とか「順番ね。」と言われて後回しにされてしまうのがわかっていたのでしょう。後回しにされるうち、ときおり、先生が忘れてしまうことも。だから、誰もいない時なら、すぐに先生が自分だけを見てくれると思ったのでしょう。
  みさちゃんにとって、日常生活の中で「すぐに相手が自分に応えてくれる」ことは、なかなかかなわない願いだったのかもしれません。「後でね。」と言われて忘れられてしまうことも多かった、そんな時、キラキラくんが、さみしいアリゲーのもとにすぐにとんできてくれたのです。みさちゃんは、自分のもとにとんできてくれたかように嬉しかったにちがいありません。

 みさちゃんとこの本を読み合いながら、私には、だんだんと彼女の明るい笑顔の裏側にあるさみしさが伝わってきました。
 アリゲーの大好きなお月様は、はじめから終わりまでにこにことしてアリゲーとキラキラくんを見守り、眠りにつくまでそばにいてくれます。みさちゃんと一緒に読みあうまで、私はそのお月様の存在に気がつきませんでした。途中、二人がお散歩に出かける場面ではお月様が描かれていないのですが、みさちゃんは「お月さま、ちゃんと隠れて見てるよ。」と信じきった表情でつぶやきました。最初から最後までお月さまが見守ってくれていることで、みさちゃんは、お母さんが枕元で見守ってくれているような安心した気持ちになったのかもしれません。
  アリゲーは、ひとりぼっちの夜をすごさなくてはならないけれど、お月様や星たちと語り合うことで、ひとりでいることを忘れ、満ち足りたかかわりあいの時間を過ごして、眠りにつきます。みさちゃんもきっと、アリゲーのように、ひとりぼっちのさみしさを乗り越えて、少しでも満たされた心のうちに、明日につながる夢を見たかったのではないでしょうか。

 

う−ん・・・。 (稚子)

ため息がでてしまいました・・・。読みながら我がクラスのゆうき君を思いだしてしまった・・・。私は、ゆうき君にこんなに寄り添っていないなあ・・・。
みさちゃんにとっては、ほんのひとときの満たされた時間なんですね。たまちゃんにとってもみさちゃんにとっても大切な一冊ですね。

 

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