「よい子」から外れると、こんなにたのしい!? (たまちゃん)
『よい子への道』を開くと、「その1」から「その25」まで、よい子になるための厳しくも愉快な修行の道が次々と指し示されています。まず「学校へもっていてはいけないもの。1.ことばづかいのわるい石、2.
ひげのはえるくすり、3.超強力またたび、4.自分とそっくりなロボット」から始まって「遠足でしてはいけないこと」「保健室でしてはいけないこと」など学校生活はいうまでもなく、「サンタクロースがきたときしてはいけないこと」まで、子どもの生活の多岐にわたって、「〜してはならない」おきてが掲げられています。
もちろん、これを読んだ子どもは、誰一人として「よい子への道」の修験道を進もうとはしません。むしろ、掲げられたおきてをことごとく破りたくなり、たちまち「わるい子へ道」をひた走りたくなるのです。それもそのはず、「よい子への道」の「〜するべからず」事項は、どれもみーんな、子ども達がやってみたくてたまらないことだらけなのですから。
たとえば、子ども達が「うわー、やってみたーい。」「いいなー、いいなー。」と羨望のまなざしで見入るのは「留守番の時してはいけないこと」の中の「おふろでかんてんゼリーをつくる」とか「遠足でしてはいけないこと」の「超デコレーションケーキをもっていく」とか「夏の夜にしてはいけないこと」の「宇宙人に宿題をやってもらう」とか「おふろでしてはいけないこと」の「おならをあつめてボンベにいれる」などなど、挙げればきりがないのです。作者のおかべりかさん、子どもがやりたいいたずらを心憎いほどよくご存知です。
というわけで、ぜひ子どもたちと『よい子への道』を楽しんでください。
さて、この『よい子への道』をクラスで読んだとき、一番前で聞いていた翼くんが「先生、これ、『わるい子への道』やで。『よい子への道』ちゃうわ!」と叫びました。
翼くんは、学習も運動も生活も、どれも手を抜くことのできない、努力と根性のかたまりみたいな子です。低学年のころから、先生に言われたことは額面通りに、いえ額面以上に受けとめ、約束事は頑なに守り通します。スポーツ少年団に所属しサッカーに夢中ですが、コーチの期待以上に全身全霊で練習に励むような、「思いこんだら試練の道」をまっしぐらタイプです。なにごとも努力でクリアーしてしまうので、クラスのみんなからは、「マルチな優等生」と見られているのか、必ず学級委員に推薦されてきました。でも、翼くんは学級委員になった以上はクラスをまとめなくては、先生の言うとおりにみんなを行動させなくては、と必死になり、自分の役職が重圧としてのしかかることもしばしばだったようです。家では、「クラスのみんなが静かにしてくれない。」とか「先生に言われても守らない。」と嘆いては涙を見せ、お母さんを心配させたそうです。
その翼くんが、「これ、『わるい子への道』やで。」と叫んだときの表情は、何かから一気に解放されたようなすがすがしさでした。
それからというもの、翼くんは、学級委員には選ばれたものの、先頭きって、いたずらをするわ、下ネタギャグは飛ばすわ、みんなと一緒になって騒ぐわで、優等生学級委員からは程遠い学級委員になってくれました。相変わらず、宿題や家庭学習は必要以上に努力するし、運動も負けじとがんばってます。基本的には先生にとっても協力的な子だけど、すごーく肩の力を抜いて生活できるようになったし、生活を楽しむ心のゆとりがでてきたような気がします。
さて、そうした一学期の終わりごろ、子ども達とくだらなーい冗談をとばしあいながら遊んでいた私に、同じ輪の中にいた翼くんは「先生、ぼく、先生みたいな下品でおもろい先生初めてやで。」とのたまいました。進んで本を手に取る子でもなかったのに、「本は面白い!」と実感したせいか、近ごろは自分から読書するようになりました。こんなふうに、彼が、今までの学校観や教師観、読書観から解放されてきたのも、『よい子への道』でスタートを切ったおかげかなと、おかべりかさんに感謝しています。
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