大岡 信(詩人)
反復練習式学習とはまったく異なる方法(漢字がたのしくなる本シリーズ推薦文)
漢字をおぼえるため、帳面にせっせと同じ字を十も二十も書き並べていた時から、気がつけば五十年余りも経ってしまった。きっとその当時はうんざりもしただろうし、途中で投げ出して外へ遊びに出てしまったこともあったろう。今ではただ、同じ字がずらっと並んでいた自分の帳面の記憶しかない。
漢字というものはそういうふうにして覚えるものだと、無意識に思いこんでいたのに気づいたのは、『漢字がたのしくなる本』を読んでびっくりしたからである。
ここには、私などの反復練習式学習とは全く異なる方法によって、きわめて合理的に、かつまた自分一人でも、皆と一緒にでも、楽しみながら漢字を学んでいける方式が、整然と展開されている。一つの知識が必ず次の新しい知識の習得に役立つように出来ている。それはそのまま、漢字というものの成り立ち(「あわせ漢字」のような)と一致していることでもある。漢字学習の手引き書として、画期的な良さをもっている本だろう。
私は児童教育の専門家ではないが、子供の成長してゆく過程なら、自分の子供たちによって多少は学ばせてもらったこともあるから、この本が画期的であるという点については疑いをもたない。