上野千鶴子さん(社会学・東京大学教授)評
介護をめぐる冒険
老いても住みなれた家で暮らしたい。
どんな障害があっても、地域でふつうの暮らしがしたい。
誰にとってもあたりまえなこんな願いがかなうのは、どうしてこんなにむずかしいのだろうか。
介護保険ができるよりずっとまえに、制度にも行政にも頼らずに、この願いを実現しようと一歩踏みだした女の人がいた。そして彼女に共感し、彼女と同行したたくさんの女の人たちがいた。河田珪子さんと「まごころヘルプ」の会員たちである。
自分のほしいサービスを他人にも提供する。いまサービスを必要としている人を、見捨てない。現場の暮らしはいつでも待ったなしの絶体絶命だ。制度の変革や行政の動きを待っていられない。河田さんの経験は波瀾万丈だ。河田さんはほとんど無謀にさえ見える。なぜなら、前例のないことにのりだす人がやることは、冒険だからだ。介護関係のドキュメントを読んで、こんなにはらはら手に汗を握る思いをしたことはない。
だが、その経験のなかで積み上げてきた知恵の宝庫から、わたしたちは学ぶことができる。まごころヘルプのある新潟に引っ越そうと考える代わりに、「うちの実家」「地域の茶の間」を、自分の足元にもつくってみたい、と、読者は励まされる思いがするだろう。
それにしても。横川和夫さんは、つらい人生を歩んだ人から話を聞きだすのがうまい。かれが男性だということを、つい忘れるくらいだ。もうひとつ、それにしても。出てくるのがどうしてほとんど女性ばかりで、男の影がこんなに薄いのだろう。介護を支えるのが女ばかり、の時代はいつまで続くのだろうか。
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